
HRteamに新卒入社。 キャリアアドバイザーの経験を経てマーケティング事業へ異動。 アドバイザー時代にサービス立ち上げや人材開発、人事の業務に携わり、現在では「Digmedia」のメディア運営責任者を担っている。
はじめに
SaaS、PaaS、IaaSは、クラウドサービスの分類を示す言葉です。
かつて企業が自社でサーバーなどの設備を持つ「オンプレミス」が主流だった時代から、ITのあり方は大きく変わりました。
現代では、これらのクラウドサービスがビジネスの俊敏性や競争力を左右する重要な要素となっています。
近年のIT業界では当たり前に使われており、就職活動でも知っておきたい基本用語です。
これらのサービスは、ビジネスの進め方や私たちの働き方を根底から変える力を持っています。
それぞれの違いを正確に理解することで、IT業界の動向や企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略がより深く見えてくるでしょう。
SaaSとは?サービスの完成形を利用できるクラウド
SaaS(サース)とは、インターネット上でソフトウェアをそのまま利用できるサービスです。
ユーザーは自分で開発やインストールをする必要がありません。
多くの場合、私たちは意識せずにSaaSを利用しており、個人の生活から企業の業務まで、あらゆる場面に浸透しています。
アカウントを登録し、月額や年額の利用料を支払うだけで、すぐに高機能なソフトウェアを使えるのが大きな魅力です。
PCだけでなくスマートフォンやタブレットからもアクセスできるサービスが多く、場所を選ばない柔軟な働き方を支えています。
SaaSの定義と特徴
SaaSとは「Software as a Service」の略で、ソフトウェアをサービスとして提供する形態です。
ユーザーはクラウド上にあるソフトをインターネット経由で利用します。
自分でソフトを購入・インストールする必要がなく、常に最新版が使えるのが特徴です。
これは、機能追加やセキュリティパッチなどの更新をすべてサービス提供者が行うためで、利用者はメンテナンスの手間から解放されます。
また、初期コストが低く、必要なときにすぐ使える利便性があります。
企業だけでなく、個人にも広く普及しており、現在では非常に身近な存在です。
代表的なサービス例
SaaSの代表的なサービスは多岐にわたります。
- グループウェア: Google Workspace(Gmail, Google ドキュメント)、Microsoft 365(Outlook, Word, Excel)
- ビジネスチャット: Slack, Microsoft Teams
- Web会議システム: Zoom, Google Meet
- 営業支援 (CRM): Salesforce
- 会計ソフト: freee, マネーフォワード クラウド
- プロジェクト管理: Asana, Trello, Backlog
これらはすべて、ブラウザや専用アプリからログインするだけで、すぐに使える点が共通しています。
SaaSを提供する代表的な企業
SaaSを提供する代表的な企業としては、Google、Microsoft、Salesforceが挙げられます。
GoogleはGmailやGoogleドライブを含むGoogle Workspaceを、MicrosoftはOffice製品をクラウドで使えるMicrosoft 365を展開し、ビジネスの生産性向上に貢献しています。
Salesforceは顧客管理(CRM)の分野で圧倒的なシェアを誇り、SaaSビジネスモデルの成功例として知られています。
PaaSとは?アプリ開発の基盤を提供するサービス
PaaS(パース)とは、アプリケーションを開発・実行するためのプラットフォームを提供するサービスです。
開発者向けのクラウドとして利用されており、いわば「アプリ開発のための高機能な作業場と道具一式」をレンタルするようなものです。
面倒なサーバー管理やOSのアップデートといったインフラの維持管理をサービス提供者に任せられるため、開発者は本来の目的であるアプリケーション開発そのものに集中できます。
これにより、革新的なサービスを市場に投入するまでの時間を大幅に短縮することが可能です。
PaaSの定義と特徴
PaaSとは「Platform as a Service」の略で、アプリケーションを開発・運用するための土台(プラットフォーム)をクラウド上で提供します。
サーバー、OS、データベース、プログラミング言語の実行環境などがすべて整備されており、開発者は環境構築に手間をかける必要がありません。
インフラの専門知識がなくてもアプリ開発に集中できるため、開発効率が劇的に向上します。
特に、迅速なサービス開発が求められるスタートアップや、企業の新規事業部門にとって強力な武器となります。
代表的なサービス例
PaaSの代表例としては、Google App Engineがあります。
Googleの堅牢なインフラ上でアプリを構築・デプロイでき、アクセス数の増減に応じて自動で規模を調整するスケーラビリティに優れています。
また、複数のプログラミング言語に対応し、シンプルな操作性で人気のHerokuも代表的なPaaSです。
その他、AmazonのAWS Elastic Beanstalkや、モバイルアプリ開発に特化したGoogleのFirebaseなどもPaaSの一種(mBaaS)として知られています。
PaaSを提供する代表的な企業
PaaSを提供する代表的企業には、Google、Amazon、Salesforceがあります。
GoogleはApp EngineやFirebaseを提供し、Web・モバイル開発で強みを発揮します。
AmazonはAWSの一部としてElastic Beanstalkを展開し、他のAWSサービスとの連携が容易な点が魅力です。
Salesforceも、自社のCRM上で動くカスタムアプリを開発できる「Lightning Platform」を提供しており、既存の顧客データを活用したアプリ開発を可能にしています。
IaaSとは?サーバーやネットワークなどを提供するサービス
IaaS(イアース)は、仮想サーバーやストレージなど、ITインフラの構成要素をクラウド上で提供するサービスです。
例えるなら、ITインフラの「土地」や「水道・電気・ガス」といった基盤だけを借りるようなものです。
その上にどんな家(システム)を、どんな設計で建てるかは、すべて利用者の自由です。
SaaSやPaaSが作られる土台でもあり、最も自由度が高い反面、専門的な知識が求められます。
IaaSの定義と特徴
IaaSとは「Infrastructure as a Service」の略で、サーバー(CPU, メモリ)、ネットワーク、ストレージといったインフラを、必要な分だけサービスとして利用できる形態です。
ユーザーは、OSの選定・インストールからミドルウェアの設定、アプリケーションの導入まで、すべてを自分たちで管理・構築できます。
ハードウェアを自社で購入・設置する必要がなく、需要に応じてリソースを柔軟に増減できる「スケーラビリティ」が最大の利点です。
一方で、インフラの設計、構築、運用、セキュリティ対策など、すべてに責任を持つ必要があるため、高度な専門知識が不可欠です。
代表的なサービス例
IaaSの代表例には、Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)があります。
世界最大のシェアを誇り、多種多様な仮想サーバー(インスタンスタイプ)を選べます。
MicrosoftのAzure Virtual Machinesも、特にWindowsサーバーとの親和性が高く、多くの企業で利用されています。
また、Google CloudのCompute Engineも、高性能なネットワークとデータ分析基盤との連携を強みとしています。
IaaSを提供する代表的な企業
IaaSを提供する代表企業は、Amazon (AWS)、Microsoft (Azure)、Google (Google Cloud) の3社が「3大クラウド」「ハイパースケーラー」と呼ばれ、市場を牽引しています。
これらの企業は世界中に巨大なデータセンターを設置し、高速で安定したインフラサービスをグローバルに展開しています。
多くのSaaSやPaaSも、実はこれらのIaaSの上で構築・提供されています。
それぞれのメリット・デメリットを比較しよう
SaaS・PaaS・IaaSはそれぞれに強みと弱みがあり、トレードオフの関係にあります。
どのサービスを選ぶかは、目的、コスト、技術力、開発スピードなど、多くの要因を考慮して決定する重要な経営判断です。
手軽さを取るか、自由度を重視するか、自社の状況に合わせて最適なモデルを選択することが成功の鍵となります。
SaaSのメリット・デメリット
以下にSaaSのメリットとデメリットを紹介します。
利用しやすい反面、自分で様々なことを作っていきたいという思考の人にはやや制限されているように思うかもしれません。
- 専門知識が不要で、契約後すぐに利用を開始できる
- メンテナンスやアップデートは提供者任せで良い。
- コストが安価で予測しやすい。
- 提供される機能以上のことはできず、カスタマイズの自由度が低い。
- サービス間のデータ連携が難しい場合がある。
- 万が一サービスが終了すると、利用できなくなるリスクがある。
PaaSのメリット・デメリット
以下にPaaSのメリットとデメリットを紹介します。
インフラ管理がいらないため開発環境に向いている反面、ほかの環境に移行するのが大変になる可能性があります。
- インフラ管理が不要で、アプリ開発に集中できるため開発スピードが向上する。
- チーム内で開発環境を統一しやすい。
- 対応するプログラミング言語やデータベースが限定される場合がある。
- 特定のPaaSに依存しすぎると、他の環境への移行が困難になる「ベンダーロックイン」のリスクがある。
IaaSのメリット・デメリット
以下にIaaSのメリットとデメリットを紹介します。
設計から運用まですべて自社で行うことができます。
しかし、それがデメリットにもなり得ます。
- OSやミドルウェアを自由に選定でき、非常に高いカスタマイズ性を持つ。
- 独自のシステムや大規模な基幹システムも構築可能。
- 設計から運用まですべて自社で行う必要があり、高度な専門知識を持つインフラエンジニアが不可欠。
- 自由度が高い分、設定ミスが重大なセキュリティ事故につながるリスクがある。
- コスト管理を怠ると、料金が想定外に高騰することもある。
SaaS・PaaS・IaaSの違いをわかりやすく整理
3つのサービスは、提供される範囲と利用者の責任範囲が明確に異なります。
ここでは、具体的な違いを料理に例えて整理し、直感的な理解を助けます。
このイメージを持つと、それぞれの違いが腹落ちしやすくなります。
役割の違いを一言で表すと?(料理の例え)
SaaSは「レストラン」 完成された料理(ソフトウェア)が提供され、客(ユーザー)はただ食べるだけです。
手軽で美味しいですが、メニューの変更や味付けの調整はできません。
PaaSは「ミールキット」 食材とレシピ(開発環境)がセットで届き、調理(プログラミング)だけ自分で行います。
買い出しや下ごしらえの手間が省け、効率的に料理ができます。
IaaSは「キッチンレンタル」 コンロや調理器具(インフラ)だけを借り、食材の調達から調理法まで、すべて自分で行います。
手間はかかりますが、どんな料理でも自由に作れます。
利用者の立場と活用シーンの違い
SaaSは主に一般の従業員(営業、マーケ、経理など)が日々の業務で利用します。
PaaSは主にアプリケーション開発者(プログラマー)が、Webサービスやモバイルアプリを作るために利用します。
IaaSは主にインフラエンジニアやSRE(サイト信頼性エンジニア)が、社内システム基盤の構築や、大規模サービスの運用で利用します。
手間・自由度のバランスで選ぶなら?
- 手軽さ・スピード重視ならSaaS: すぐに使える完成品が欲しい場合に最適。
- 開発効率と自由度の両立ならPaaS: 開発に集中したいが、インフラ管理の手間は省きたい場合に最適。
- 完全な自由度・独自性重視ならIaaS: 特殊な要件や、自社でインフラを完全にコントロールしたい場合に最適。
プロジェクトの目的、予算、チームのスキルセットを総合的に評価し、最適なサービスを選ぶことが重要です。
ビジネスや就職活動にどう関係する?
クラウドサービスは、もはやIT企業だけのものではありません。
あらゆる業界の企業活動に欠かせない存在となっており、この知識はビジネスパーソンとしての基礎教養と言えます。
就職活動においても、業界研究や職種理解を深め、自身のITリテラシーをアピールする上で非常に役立ちます。
企業がクラウドを導入する理由
企業がクラウドを導入する最大の理由は、経営のスピードアップとコスト最適化です。
自社で資産を持つ必要がないため初期投資を大幅に削減でき、需要に応じてリソースを伸縮させられるため無駄なコストが発生しません。
これにより、企業は市場の変化に素早く対応し、データに基づいた意思決定を行い、新たなビジネスチャンスを掴むことができるのです。
クラウド関連職種の一例(SE、営業など)
クラウドの普及に伴い、多様な職種が生まれています。
- クラウドエンジニア/インフラエンジニア: IaaSやPaaSを駆使してシステムの設計・構築・運用を行う。
- システムエンジニア (SE): 顧客の課題に対し、SaaSの導入やクラウドを利用したシステム開発を提案する。
- クラウド営業: 自社のクラウドサービス(SaaS, PaaS, IaaS)を法人顧客に提案・販売する。
- クラウドコンサルタント: 企業のクラウド導入戦略そのものを策定支援する。
また、マーケターがSaaSの分析ツールを使ったり、人事担当がSaaSの採用管理システムを使ったりと、非エンジニア職でもクラウドに触れる機会は急増しています。
クラウドを活用している企業例
SaaS提供企業であるサイボウズ、freee、Sansanはもちろんのこと、今や業界を問わず多くの企業がクラウドを活用しています。
例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、AWSを活用してグローバルなサプライチェーンやECサイトの基盤を構築しています。
トヨタ自動車も、コネクテッドカーから得られる膨大なデータを収集・分析する基盤として、AWSやAzureといったクラウドを活用しています。
就活生のよくある質問
ここでは、SaaS・PaaS・IaaSに関して就活生からよくある疑問に、一歩踏み込んで答えていきます。
カタカナ用語が多くて難しく感じるかもしれませんが、基本的なポイントを押さえれば大丈夫です。
面接などで自信を持って話せるよう、ここで疑問をスッキリさせておきましょう。
クラウドサービスって結局全部ネットで使えるってこと?
インターネット経由でサービスを利用するのがクラウドの基本です。
これにより、ユーザーは場所やデバイス(PC、スマホ)を問わずにデータや機能にアクセスできます。
ただし、企業によってはセキュリティポリシー上、特定のネットワーク(社内LANやVPN接続時)からしかアクセスを許可しない、といった制限を設けている場合もあります。
SaaS・PaaS・IaaSはどれが一番多く使われているの?
市場規模やユーザー数で言えば、SaaSが圧倒的に多く使われています。
ビジネスの現場では、メール、チャット、Web会議など、ほぼ全ての従業員が何らかのSaaSに日常的に触れています。
PaaSやIaaSは、主に開発者やインフラ担当者といった専門職が利用するため、ユーザー数は限定的です。
就職活動では、まず身近なSaaSの事例から理解を深めるのがおすすめです。
社内システムもクラウド化すればSaaSになるの?
必ずしもそうとは限りません。
ここが重要なポイントです。
自社で開発した業務システムを、IaaSの仮想サーバー上で動かしているだけの場合は「IaaSを利用している」状態です。
それをPaaSの環境で動かせば「PaaSを利用している」となります。
SaaSと呼ばれるのは、そのシステムが「多数の企業やユーザーが共通で利用できる、サービス化されたソフトウェア」として提供されている場合です。
「クラウド化 ≠ SaaS」である点は正確に理解しておきましょう。
文系でも理解する必要あるの?就活で聞かれる?
文系出身者こそ理解しておく価値があります。
IT業界はもちろん、メーカー、金融、商社など、あらゆる業界でクラウド活用は経営の重要テーマです。
営業職として顧客にSaaSを提案したり、企画職としてクラウドを活用した新規事業を考えたり、経理職としてクラウドのコスト管理をしたりと、活躍の場は無数にあります。
面接で直接聞かれなくても、これらの知識を交えて志望動機や事業理解を語ることで、他の就活生と差をつけることができるでしょう。
まとめ
SaaS・PaaS・IaaSは、それぞれ提供範囲、自由度、利用者が異なるクラウドサービスです。
これらの違いと関係性を理解することは、現代のビジネスやテクノロジーの動向を読み解く上で不可欠です。
就職活動においても、この知識は業界・企業研究を深め、自身のポテンシャルを示すための強力な武器となります。
クラウドはもはや一過性のトレンドではなく、社会を支えるインフラです。
この記事をきっかけに、ぜひIT技術への興味を深め、未来のキャリアに活かしてください。
就活コンサルタント木下より
例えば、ある企業が「営業活動を効率化する新しいスマホアプリ」を開発する場合、営業担当者はSaaSの顧客管理ツールを使い、開発者はPaaSでアプリを素早く開発し、そのアプリのデータをIaaS上で構築した分析基盤に貯めていく、といった使い分けが考えられますね!