
HRteamに新卒入社。 キャリアアドバイザーの経験を経てマーケティング事業へ異動。 アドバイザー時代にサービス立ち上げや人材開発、人事の業務に携わり、現在では「Digmedia」のメディア運営責任者を担っている。
はじめに
就職活動を進める中で、憧れの業界の一つとして出版業界を考える学生は多いのではないでしょうか。
本や雑誌、電子書籍といった形で人々に知識や感動を届ける出版業界は、非常に魅力的で人気が高い業界です。
しかし、同時に「出版業界はきつい」「激務だ」といったネガティブな情報も耳にすることがあるかもしれません。
そうした情報に触れて、本当にこの業界を目指すべきか迷っている人もいるでしょう。
この記事では、出版業界の仕事内容や現状、そして「きつい」と言われる理由を具体的に解説し、業界への理解を深めてもらいます。
この記事を通して、あなたが抱える疑問を解消し、本当に自分が出版業界に向いているのかを判断するための材料を提供することを目指します。
【出版業界はきついのか】出版業界はきつい?
出版業界と聞いて、華やかなイメージを持つ一方で、労働環境の厳しさを懸念する声も聞かれます。
「きつい」というイメージが先行しがちですが、その実態は人や職種、企業の状況によって大きく異なります。
たしかに、締め切りに追われる業務や、ヒット作を生み出すプレッシャーなど、心身ともに負荷がかかる場面が多いことは事実です。
しかし、多くの業界と同様に、きつさの感じ方は人それぞれであり、仕事への情熱ややりがいがそれを上回ることも少なくありません。
結論として、一概に「きつい」と断じることはできません。
重要なのは、「きつい」と言われる具体的な理由や背景を正しく理解することであり、その上で自分がその環境で活躍できるかを考えることです。
【出版業界はきついのか】出版業界の仕事内容
企画・編集
企画・編集の仕事は、出版物の内容をゼロから作り上げる非常に重要な役割を担います。
書籍や雑誌のテーマを考案し、読者のニーズや市場の動向を調査することからスタートします。
企画が固まれば、執筆者やデザイナー、カメラマンといった外部のクリエイターと連携を取り、原稿の依頼や打ち合わせを行います。
集まった原稿の校正・校閲、レイアウトの調整、タイトルや帯のコピー作成など、出版物の完成に至るまで全ての工程の責任者となるのが編集者です。
特に、いかに読者の心に響く企画を立てられるかが問われるため、常にアンテナを張り、新しい情報やトレンドを追いかける探究心が求められます。
単に文字を扱うだけでなく、プロジェクト全体を管理するプロデューサー的な役割も担う、クリエイティブかつ多忙な職種です。
制作・DTP
制作・DTP(DeskTop Publishing)の仕事は、編集者が用意した原稿やデザイン指示に基づき、実際に印刷できる状態のデータを作成することです。
具体的には、InDesignやIllustratorといった専門のソフトウェアを駆使して、文字や写真、図版などを適切に配置し、読みやすく美しい紙面を作り上げていきます。
誤字脱字の最終チェックや、レイアウトの細部にまで気を配る集中力が求められる仕事です。
また、印刷所とのやり取りも重要な業務の一つであり、使用する紙の質やインクの色味、綴じ方など、製品の品質を左右する技術的な知識も必要とされます。
編集者の意図を正確に形にするための高い技術力と、緻密な作業の繰り返しを厭わない根気強さが、この職種で活躍するための鍵となります。
営業・販売促進
営業・販売促進の仕事は、完成した出版物を読者に届けるための戦略を立て、実行していくことです。
具体的には、全国の書店へ足を運び、新刊の紹介や発注数の交渉を行う「書店営業」が中心となります。
書店員との信頼関係を築き、いかに良い場所に本を置いてもらうかが売上を大きく左右するため、高いコミュニケーション能力と提案力が求められます。
また、SNSやWeb広告、メディア露出などを通じた「販売促進(宣伝)」活動も重要な役割です。
いかに多くの人に本の魅力を伝え、書店に足を運んでもらうかというマーケティング視点が不可欠です。
市場の動きを敏感に察知し、戦略的な販促活動を展開することで、出版物の売上最大化に貢献します。
著作権・法務
著作権・法務の仕事は、出版物の権利関係を適切に管理し、法的なリスクから会社を守る役割を担います。
具体的には、著者との間で交わされる出版契約の内容を確認・作成したり、挿絵や写真などの著作物利用に関する許諾手続きを行ったりします。
また、海外の出版社との翻訳出版権に関する交渉や契約業務も担当することがあり、専門的な法律知識だけでなく、グローバルな視点も必要です。
知財に関する法律の正確な理解と、契約内容を細部まで読み解く注意力が求められます。
この業務は、出版社が安心してクリエイティブな活動を続けるための土台を支える、地味ながらも非常に重要な役割を果たしています。
【出版業界はきついのか】出版業界の主な職種
編集者
編集者は、企画立案から入稿、校了まで、出版物制作の全工程を統括する制作部門の心臓部ともいえる職種です。
文芸書、実用書、専門書、雑誌、コミックなど、担当するジャンルによって専門性が深まります。
著者の意図を最大限に引き出し、読者にとって魅力的なコンテンツに仕上げるためのディレクション能力が求められます。
多忙なスケジュール管理や、関係者間の調整役も担うため、ストレス耐性や交渉力、そして何よりも情熱が欠かせません。
企画がヒットした際の大きな達成感は、この仕事ならではの魅力です。
営業職
出版社の営業職は、主に書店や取次(出版物の卸売業者)に対して、自社の出版物を販売し、販売網を維持・拡大する役割を担います。
単に本を売るだけでなく、どのようなプロモーションで売上を伸ばすかという戦略的な提案も行います。
市場調査や売上データの分析を通じて、地域や店舗ごとの特性に合わせたきめ細やかな営業活動を行うことが重要です。
コミュニケーション能力と分析力を活かし、出版物を世の中に広めるための重要な橋渡し役を担います。
制作・デザイナー
制作・デザイナー職は、出版物のビジュアル面を担当し、内容を視覚的に魅力的に伝えるためのデザインを行う職種です。
書籍の装丁や本文のレイアウト、雑誌のグラフィックデザインなど、その領域は多岐にわたります。
編集者と密に連携を取りながら、企画意図を深く理解し、それを表現するための高いデザインスキルと感性が求められます。
また、印刷技術に関する知識も必要であり、クリエイティブな才能と技術的な正確性の両方を兼ね備える必要があります。
マーケティング・宣伝職
マーケティング・宣伝職は、出版物の発売前から発売後にわたり、ターゲット読者に情報を届け、購入を促すための活動全般を担います。
Webメディアでの広告出稿やSNSでの情報発信、メディアへのプレスリリース、書店でのイベント企画など、その手法は多岐にわたります。
市場や競合他社の動向を分析し、最も効果的な方法で出版物の魅力を伝える戦略を立案・実行する能力が求められます。
販売促進活動を通じて、読者と出版物を繋ぐ重要な役割を果たします。
【出版業界はきついのか】出版業界がきついとされる理由
労働時間が長くなりがち
出版業界がきついとされる最も一般的な理由の一つは、労働時間が長くなりがちな点です。
特に編集者や制作職は、締切日までに原稿を完成させ、校了(印刷OKを出すこと)に至るまでの作業が集中するため、時期によっては残業や休日出勤が常態化することがあります。
著者や外部クリエイターとの打ち合わせが夜間になることもあり、自分の裁量で時間調整ができるとはいえ、結果として長時間労働になりやすい傾向があります。
これは、一つひとつの出版物がオーダーメイドに近い性質を持ち、計画通りに進まないことが多いためです。
プレッシャーが大きい
出版業界の仕事は、常に「売れる本」を作るというプレッシャーと隣り合わせです。
特に大手出版社では、企画した本がベストセラーになるかどうかが、会社の業績に直結するため、その責任は非常に重いです。
編集者は、企画の成功だけでなく、著者のモチベーション維持やスケジュール管理、品質管理など、多方面にわたるプレッシャーを受けます。
また、電子書籍の普及や読書離れなど、市場の不確実性が高い中で成果を出し続けることも、大きな精神的負担となることがあります。
給与水準が特別高いわけではない
華やかなイメージとは裏腹に、出版業界全体の給与水準が他の人気業界と比べて特別に高いわけではないことも、「きつい」と感じる一因かもしれません。
多くの企業では、情熱ややりがいを重視する傾向があり、それに見合うだけの経済的な報酬が得られにくいと感じる人もいます。
特に、前述したような長時間労働や大きなプレッシャーを考慮すると、仕事の負荷に対して見返りが少ないと感じてしまうケースも存在します。
ただし、企業の規模や職種、個人の実績によって給与は大きく変動します。
デジタル化への対応
出版業界は、紙媒体から電子媒体への移行という、大きな時代の変化に直面しており、デジタル化への対応が常に求められることがきついと感じる理由にも挙げられます。
電子書籍の制作、Webメディアの運営、デジタルマーケティングなど、従来の紙媒体のノウハウだけでは対応できない新しいスキルや知識を、日々習得し続けなければなりません。
既存のビジネスモデルと新しい技術や市場のニーズとの間で、常に試行錯誤が求められる過渡期にあることが、現場の負担を増やしています。
【出版業界はきついのか】出版業界の現状・課題
紙媒体の市場縮小と電子書籍の成長
出版業界の最も大きな現状は、長年にわたる紙媒体(書籍・雑誌)の市場規模の縮小傾向です。
特に雑誌の落ち込みが顕著であり、多くの出版社がこの課題に直面しています。
一方で、電子書籍・電子コミックの市場は堅調に成長しており、売上の柱として確立しつつあります。
しかし、紙媒体の売上減少を電子媒体だけで完全に補うには至っておらず、いかにデジタルシフトを加速させるか、そして紙とデジタルのバランスをどう取るかが喫緊の課題となっています。
厳しい競争環境
出版業界は、メディアの多様化により、可処分時間の奪い合いという厳しい競争環境に置かれています。
動画配信サービスやSNS、ゲームなど、読者の時間を引き付けるエンターテイメントが多数存在する中で、出版物を選んでもらうための工夫が求められています。
また、少子化による読者層の減少も長期的な課題です。
独自のコンテンツ力やプロモーション戦略を磨き、他のメディアにはない「読書体験」の価値を再定義していくことが重要です。
若手の育成と働き方改革
長時間労働が常態化しやすい業界体質から、若手社員の育成と定着、そして働き方改革の推進は重要な課題です。
デジタル化への対応に必要な新しいスキルを持った人材を確保し、育てていく必要があります。
また、過度な労働環境を改善し、ワークライフバランスを考慮した働き方を実現することで、社員が長期的に活躍できる環境を整備することが求められています。
企業によっては、フレックスタイム制の導入やリモートワークの推進など、環境改善に向けた取り組みが進められています。
【出版業界はきついのか】出版業界に向いている人
コンテンツへの強い情熱がある人
出版業界で働く上で最も重要な資質の一つは、自分が関わるコンテンツ、すなわち本や雑誌、情報そのものへの尽きることのない強い情熱です。
単に「本が好き」というだけでなく、なぜその本を作る必要があるのか、読者に何を伝えたいのかという熱意を持ち続けられる人が向いています。
ヒット作を生み出すための原動力は、この情熱にほかならず、長時間労働やプレッシャーを乗り越えるためのモチベーションの源泉となります。
探求心とトレンドへの感度が高い人
企画・編集の仕事においては、常に新しい情報やトレンドを敏感に察知し、それを出版企画に落とし込む探求心が不可欠です。
世の中の「今」何が求められているのか、これから何が流行るのかを深く掘り下げて考える力が必要です。
多様な分野に興味を持ち、幅広い知識と柔軟な発想力で、読者の関心を惹きつける切り口を見つけられる人が、この業界で活躍できます。
コミュニケーション能力と調整力がある人
出版物の制作は、著者、デザイナー、印刷所、営業部門など、多くの関係者との連携の上に成り立っています。
そのため、円滑な人間関係を築き、異なる意見や利害を調整する高いコミュニケーション能力と交渉力が求められます。
特に編集者は、プロジェクトの「司令塔」として、全ての関係者をまとめ上げる力が不可欠であり、相手の意図を正確に理解し、自分の考えを明確に伝える能力が重要です。
地道な作業をいとわない忍耐強さがある人
華やかなイメージとは裏腹に、校正・校閲の繰り返しや、細かなデータ管理、市場調査など、地道で根気のいる作業が多いのも出版業界の特徴です。
特に品質管理においては、ミスが許されない緻密な作業が求められます。
そのため、完璧を追求する几帳面さと、単調な作業を最後までやり遂げる忍耐強さがある人が、質の高い出版物を生み出す上で不可欠な存在となります。
常に新しい挑戦を続ける向上心がある人
デジタル化が進む現代の出版業界では、従来のやり方に固執せず、常に新しい技術やビジネスモデルに適応しようとする向上心が求められます。
電子書籍やWebメディア、SNSを活用した販促など、新しい分野に果敢に挑戦し、自ら学び続ける意欲がある人が、変化の激しい業界で生き残っていくことができます。
現状に満足せず、常に自己成長を目指す姿勢が、キャリアを切り開く鍵となります。
【出版業界はきついのか】出版業界に向いていない人
ワークライフバランスを最優先する人
出版業界は、特に制作部門や編集職において、突発的な業務や締切前の集中作業により、私生活とのバランスが取りにくい時期があることを理解しておく必要があります。
もし、残業が一切ないことや、自分の時間を最優先することを強く望むのであれば、業界特有の働き方とミスマッチを感じる可能性があります。
仕事に情熱を注ぎ、忙しさも「やりがい」と捉えられる程度の柔軟性を持つことが望まれます。
単調な作業を苦痛に感じる人
出版物の制作過程には、企画の華々しい側面だけでなく、校正・校閲やデータ入力など、地道で細部にわたる確認作業が大量に含まれます。
企画だけに関わりたい、クリエイティブな部分だけを担当したいという考えでは、現実の業務とのギャップに苦しむかもしれません。
一つひとつの作業を丁寧に進めることの重要性を理解し、それが全体の品質に繋がるという意識を持てない人には、向いていない可能性があります。
読者の視点に立つことが苦手な人
出版物は、最終的に読者に届いて初めて価値を持ちます。
そのため、自分が作りたいものよりも、「読者が何を求めているか」という視点を常に持つことが不可欠です。
自己満足に陥りやすく、市場のニーズやターゲット層の興味関心を分析することが苦手な人は、売れる企画を生み出すことが難しくなります。
客観的に自分の企画を見つめ、読者の気持ちに寄り添える共感力が求められます。
【出版業界はきついのか】出版業界に行くためにすべきこと
業界・企業研究を徹底的に行う
出版業界への就職を目指すなら、まずは業界全体の現状と課題、そして各社の特性について徹底的に研究することが重要です。
紙媒体の売上比率、電子書籍への注力度、得意なジャンル、企業文化など、会社ごとの違いを深く理解することが、志望動機や面接でのアピールに繋がります。
業界の専門誌やニュース、各社のIR情報などを活用し、単なる憧れではない、地に足の着いた情報収集を心がけてください。
コンテンツへの熱量を証明できる経験を積む
単に「本が好き」というだけでは、熱意として不十分です。
自分がいかにコンテンツ制作に熱量を注げるかを具体的な経験で証明する必要があります。
例えば、学生団体での広報誌制作、Webメディアでの記事執筆、フリーペーパーの企画・制作など、何らかの形で企画から完成まで携わった経験は大きなアピールポイントになります。
趣味でも、ある分野を徹底的に調べ上げた経験など、探求心を示すエピソードも有効です。
編集・マーケティングに関する知識を学ぶ
出版業界で働く上で役立つ、編集スキルやマーケティングの基礎知識を事前に学んでおくことも有効です。
例えば、文章の校正技術やコピーライティングの基本、DTPソフト(InDesignなど)の操作、Webマーケティングの動向などは、入社後の即戦力として期待されます。
大学の授業や資格取得、独学などを通じて専門的な知識を習得することで、この業界に対する本気度を示すことができます。
多様な視点や価値観に触れる
魅力的なコンテンツを生み出すためには、多様な読者の視点や価値観を理解することが不可欠です。
幅広いジャンルの本を読むことはもちろん、様々な人との交流や、アルバイト、ボランティア活動など、自分の興味の範囲外の経験を積極的に積むことが重要です。
そうした経験を通じて培われた多角的な視点や、新しいものを柔軟に受け入れる姿勢は、企画力や編集力に直結します。
まとめ
出版業界は、「きつい」と言われる側面がある一方で、自分が生み出したコンテンツが世の中に影響を与えるという、他の仕事では得難い大きなやりがいと達成感に満ちた業界です。
労働時間の長さやプレッシャーなど、「きつい」とされる具体的な理由を正しく理解し、それらを乗り越えるだけのコンテンツへの情熱と、プロとしての強い意志を持てるかどうかが、この業界で成功するための鍵となります。
もし、あなたがこの業界に強い興味と情熱を抱いているのであれば、この記事で紹介した仕事内容や向いている人の特徴を参考に、ぜひ徹底した業界研究と具体的な行動を開始してください。
あなたの熱意と才能が、日本の出版文化を次の時代へと繋いでいくことを期待しています。