化学業界の現状|生産する製品やメーカーの種類・製造別分類と職種も紹介

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伊東美奈
Digmedia編集長
伊東美奈

HRteamに新卒入社。 キャリアアドバイザーの経験を経てマーケティング事業へ異動。 アドバイザー時代にサービス立ち上げや人材開発、人事の業務に携わり、現在では「Digmedia」のメディア運営責任者を担っている。

「化学業界ってどんな業界なの?」 「化学業界を形成する化学メーカーにはどんな種類がある?」 「化学業界で活躍できる職種にはどんなものがあるの?」 このように、化学業界や化学業界の化学メーカーについて詳しく知りたいという人もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、化学業界の現状や業界を形成する化学メーカーの種類、特徴を紹介しています。本記事を読むことで、化学業界がどのようなものなのか把握することができるでしょう。

また、化学メーカーの製造別分類や化学業界の職種も紹介しますので、化学業界で働きたいと考えている人の参考にもなります。

化学業界について詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

化学業界とは?

化学業界は、さまざまな原材料に化学技術を加えることで、価値の高い製品を開発している業界です。また、このように化学反応を利用することで、製品を生み出す企業のことを化学メーカーと呼びます。

化学業界の分野は多岐にわたるため、化学メーカーが開発している製品も企業によって異なります。化学業界が生み出している化学製品としては、プラスチックやゴム、合成繊維、農薬、化粧品、医薬品などが代表的だと言えるでしょう。

化学業界の現状

化学業界への就職を検討している人の中には、化学業界の市場規模や働く人の年収、労働環境などが気になっているという人も多いでしょう。

市場規模の推移などを知ることで、その業界の将来性についても知ることができるでしょう。ここでは化学業界の現状について解説します。

市場規模

近年の化学業界の市場規模は、約29.8兆円と言われています。これは他の業界と比較しても規模が大きいと言えますが、新型コロナウイルスや米中貿易摩擦によって自動車向け需要が低迷した期間は、市場規模は減少していたと言われています。

直近の業界規模の推移をみると、若干上昇しつつもほぼ横ばいの状態となっていると言えるでしょう。

平均年収

化学業界の平均年収は約640万円となっています。業界別の平均年収をみると、化学業界は約190ある業界の中でも中央あたりに位置しています。

なお、この平均年収は化学業界の中でも上場企業の平均年収です。

労働環境

化学業界は、労働環境がホワイトな企業が多い業界だと言えます。基本的に残業時間が少ない傾向にあり、定時に帰宅できるケースも多いでしょう。

ただし、全ての化学メーカーや職種で残業がないというわけではないため、場合によっては夜遅くまで働かなくてはいけないこともあると言えます。たとえば、営業職や商品開発の納期直前の研究職や開発職の場合、残業が発生することも多いでしょう。

化学業界が生産する化学製品

化学業界が生産している化学製品は、「基礎化学品」と「機能化学品」の2つに分けることができます。基礎化学品は大量生産によって生産される加工度の低い化学品、機能化学品は少量多品種生産によって生産される加工度の高い化学品となっています。

ここでは化学業界が生産する化学製品について解説するため、どのような違いがあるのか参考にしてみてください。

基礎化学品

基礎化学品とは、石油や鉱石などの天然資源に簡単な化学反応を加えることによって製造された製品のことです。基礎化学品にはポリエチレンやポリプロピレンなどの合成樹脂、アンモニアやカセイソーダなどの工業薬品、酸素や窒素などの産業ガスがあります。

基礎化学品はフロー法と呼ばれる大量生産によって製造されており、加工プロセスも単純です。そのため、品質にも大きな差が生まれにくいことから、メーカー同士での価格競争が激化しやすいという傾向があるでしょう。

また、価格競争が激化した結果、国内のエチレンプラントの多くが停止することになり、その代わりに後述する機能化学品の生産へ移行する企業も増えていると言えます。

機能化学品

機能化学品には光学材料や磁性材料、導電・絶縁材料、伝熱・遮熱材料、触媒、繊維、粒子、膜、シート、フィルムなどがあります。機能化学品は、バッチ法によって少数多品種製造が行われています。

品質に差が生まれにくく価格競争が起きやすいと言われる基礎化学品と違い、機能化学品は今後も市場の拡大が期待されています。日本の科学メーカーの場合、リチウムイオン電池などに用いられる電子材料で高いシェアを獲得している点が特徴です。

化学業界を形成する化学メーカー

化学業界では、製品の生産工程が川にたとえられています。他の産業に材料を供給するようなメーカーを「川上メーカー」、最終製品の生産を行っているメーカーを「川下メーカー」と呼び、事業内容自体は企業によっても異なります。

ここでは、化学業界を形成する化学メーカーについて解説しているため、参考にしてみてはいかがでしょうか。

川上メーカー(化学品生産)

川上メーカーとは化学品を生産しているメーカーで、原油や天然ガスなどを精製します。化学反応により、ナフサから生成されるエチレンやベンゼンなどの基礎化学製品を生み出しています。

なお、川上の事業を行っているメーカーは、自社で川中、川下の事業も一貫して行っている総合化学メーカーがほとんどでしょう。川上メーカーとしては、旭化成株式会社や住友化学株式会社、三菱ケミカルホールディングスなどが挙げられます。

川中メーカー(素材生産)

川中メーカーとは、基礎化学製品を原料として中間素材を生産しているメーカーです。ポリエチレンやポリプロピレン、ポリスチレンなどの合成樹脂、合成ゴムや合成繊維などを作っており、誘導品メーカーとも言われています。

川中メーカーとしては、東レ株式会社やJSR株式会社、信越化学工業株式会社などが挙げられます。

川下メーカー(最終製品生産)

川下メーカーとは、中間素材から最終製品を生産しているメーカーです。化粧品やプラスチック容器、自動車タイヤ、トイレタリー、ガラス、電子部品、写真用フィルムなどさまざまなものが生み出されています。

最終製品は消費者の手に渡るため、大手の川下メーカーであれば聞き覚えのあるメーカーが多いでしょう。代表的な川下メーカーとしては、P&Gジャパン合同会社や花王株式会社などが挙げられます。

化学メーカーの種類と特徴

化学メーカーは前述のような生産工程ごとの切り分け以外にも、どのような事業展開を行っているのかによって3つの種類に分けることができます。

また、化学メーカーの種類によって、ビジネスモデルにもさまざまな違いがあるため、ここでは化学メーカーの種類と特徴について解説します。参考にしてみてはいかがでしょうか。

総合化学メーカー

総合化学メーカーとは、原材料の取得から製品開発、販売までを自社で一貫して行っている企業のことです。前述のとおり、川上メーカーのほとんどは統合化学メーカーであるため、基礎原料の取得だけでなく自社で製品化まで行っています。

化学メーカーの中には川中や川下のみを行っている企業もありますが、総合化学メーカーは川上もしくは川中から川下までを自社で全て担っていることから、技術力の高い企業だと言えるでしょう。

誘導品メーカー

誘導品メーカーとは、主に各部品の開発を行う川中の工程を担う企業のことです。基礎原料をもとに製品を開発するために必要な中間素材を開発している化学メーカーで、プラスチックや合成繊維などを作りだすことが仕事です。

誘導品メーカーは開発した商品を別の企業に販売しているため、BtoBの企業となっています。誘導品メーカーの生産したものが直接消費者の元へ届くわけではありませんが、誘導品メーカーの開発した中間素材によって製品が開発されるため、間接的に消費者とも関わっています。

電子材料メーカー

電子材料メーカーとは、半導体や液晶ディスプレイ、リチウムイオン電池などに用いられる電子材料を開発している企業のことです。電子材料メーカーは自社で基礎原料の取得を行い、各部品を開発もしくは誘導品メーカーから購入し、自社で製品化しています。

電子材料はスマートフォンなどにも用いられていますが、直接消費者の手に渡るわけではありません。そのため、電子材料メーカーもBtoBの企業となっていますが、電子材料は私達の生活の身近なあらゆる場所で使用されています。

化学メーカーの製造別分類

日本標準産業分類によると、化学メーカーの製造別分類は「大分類 E 製造業」の「中分類 16 化学工業」によって分類が定義されています。また、化学工業の中でもさまざまな分類にわかれています。

化学メーカーの製造別分類について解説していくため、参考にしてみてください。

出典:日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)-分類項目名|総務省 参照:https://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/index/seido/sangyo/02toukatsu01_03000044.html

化学肥料製造業

化学肥料製造業とは、主に化学肥料を製造している事業所です。化学肥料製造業の中でも、「窒素質・りん酸質肥料製造業」「複合肥料製造業」「その他の化学肥料製造業」の3つの分類にわかれています。

たとえば、「窒素質・りん酸質肥料製造業」はアンモニアやアンモニア誘導品を製造する事業所、「複合肥料製造業」は窒素やりん酸または加里など複数の成分が含まれている複合肥料を製造する事業所を指します。

無機化学工業製品製造業

無機化学工業製品製造業は、主に工業原料に用いられる無機化学工業製品を製造している事業所です。無機化学工業製品製造業には、「ソーダ工業」「無機顔料製造業」「圧縮ガス・液化ガス製造業」「塩製造業」「その他の無機化学工業製品製造業」があります。

たとえば「ソーダ工業」の場合、か性ソーダやソーダ灰、重炭酸ナトリウム、塩酸などのナトリウム化合物を製造する事業所を指します。

有機化学工業製品製造業

有機化学工業製品製造業は、主に工業原料に用いられる有機化学工業製品を製造している事業所です。ただし、医薬品や合成繊維、石けんやグリセリンその他の油脂製品、農薬、香料などを製造する事業所は別に分類されます。

有機化学工業製品製造業には、「石油化学系基礎製品製造業(一貫して生産される誘導品を含む)」「脂肪族系中間物製造業(脂肪族系溶剤を含む)」「発酵工業」などがあります。

油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料製造業

油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料製造業は、油脂加工製品や石けん、ろうそくなどを製造している事業所です。

油脂加工製品・石けん・合成洗剤・界面活性剤・塗料製造業には、「脂肪酸・硬化油・グリセリン製造業」「石けん・合成洗剤製造業」「界面活性剤製造業(石けん、合成洗剤を除く)」「塗料製造業」「印刷インキ製造業」などがあります。

医薬品製造業

医薬品製造業は、医薬品原薬や医薬品製剤などを製造している事業所です。医薬品製造業には、「医薬品原薬製造業」「医薬品製剤製造業」「生物学的製剤製造業」「塗料製造業」「生薬・漢方製剤製造業」「動物用医薬品製造業」があります。

たとえば「医薬品原薬製造業」の場合、医薬品の原末や原液を製造する事業所を指します。

化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業

化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業は、医薬品原薬や医薬品製剤などを製造している事業所です。

化粧品・歯磨・その他の化粧用調整品製造業には、「仕上用・皮膚用化粧品製造業(香水、オーデコロンを含む)」「頭髪用化粧品製造業」「その他の化粧品・歯磨・化粧用調整品製造業」があります。

その他の化学工業

その他の化学工業としては、「火薬類製造業」「農薬製造業」「香料製造業」「ゼラチン・接着剤製造業」「写真感光材料製造業」「天然樹脂製品・木材化学製品製造業」「試薬製造業」「他に分類されない化学工業製品製造業」があります。

たとえば「火薬類製造業」の場合、黒色火薬や無煙火薬、ダイナマイトなどの産業用火薬類や弾薬の原料となる爆薬、無煙火薬を製造する事業所を指します。

化学業界に於ける職種

化学業界で活躍している職種にもさまざまな種類があります。化学業界と聞いてイメージしやすいのは研究開発職などの研究や開発に携わる職種だと言えますが、他の業界と同様に営業職や事務職なども存在します。

ここでは化学業界における職種について解説しているため、参考にしてみてください。

研究開発職

研究開発職とは、主に新しい発見によって新規開拓を目指す基礎研究と、基礎研究の成果を生かした製品開発を行う応用研究を行う仕事です。

研究開発職では高い専門性が求められると言えるため、研究開発職では化学専攻などの修士号以上の学位を取得した人材が採用されるケースが多いでしょう。

また、生物専攻や物理専攻の人材が採用されるケースもあると言えます。

製造・生産技術開発職

製造・生産技術開発職とは、製品製造の技術や生産方法の開発を行う仕事です。製造・生産技術開発職が効率的な製造方法を検討することにより、製品を量産化して販売できるようになります。

製造・生産技術開発職はさまざまな部署と連携することになるため、専門性の高さはもちろん、コミュニケーションスキルも必要とされるでしょう。

営業職

営業職は他の業界と同様に、生産したものの販売を行う職種です。営業職は顧客に自社の商品を売り込むことになるため、業界や自社製品の知識は必須となるでしょう。

そのため、入社後はしっかりと勉強する必要があります。化学メーカーの営業職の場合でも理系でなければ入社できないというわけではないため、文系でも専門的な知識を学ぶ意欲があれば営業職として働くことは可能でしょう。

事務系職

事務系職は主に庶務関連の業務を行い、他の職種のサポートを行う職種です。データ入力や資料作成、資料の整理、来客対応や電話対応などを行います。

事務系の職種は専門的な知識がない状態からでも始めやすいため、特に文系の人におすすめだと言えるでしょう。

化学業界の課題と今後の動向

化学業界について詳しく紹介してきましたが、化学業界が抱える課題や今後の動向についても知りたいという人は多いでしょう。

ここでは最後に、化学業界の課題と今後の動向について解説します。化学業界がどのような状況にあるのかを知り、自身の進路を検討する参考にしてみてください。

原料高騰による収益圧迫

現在インフレが業界に影響を与えており、特に原料である原油価格が上昇していることが化学業界の収益を圧迫していると言われています。

化学品の主原料となるナフサは原油から精製されるため、原油価格が上昇することでナフサの価格も連動して上がります。このような理由から、特に川上で原料に近い製品を扱っている総合化学メーカーに大きな影響があると言えるでしょう。

国内市場減少によるM&Aの増加と海外進出

現在、日本国内でのエチレン系誘導品の需要が低迷を続けていると言われています。国内市場が減少していることから、特に競争の激しい川上メーカーではM&Aが増加しています。

対して海外市場は緩やかに成長を続けていることから、今後は日本企業にとって大きな脅威となっていくでしょう。特に北米や中国のプラントの生産能力が増加していることが、海外勢の競争力向上の要因だと言われています。

IoTの活用

近年ではさまざまな業界でデジタル化やAI、IoTの活用が進められています。化学業界の場合も、適切な設計や運用ルールを設計し、IoTを活用することによって生産システムを高度に維持し続ける、スマートファクトリーの構築が重要でしょう。

IoTを活用するためには、ものづくり自体の最適化や工場が提供するべき価値の見直しなども必要になるでしょう。

環境問題への取り組み

化学業界では、現在世界が直面している地球温暖化問題に対して業界全体として取り組んでいると言われています。

カーボンニュートラルを実現するため、原料の炭素循環やエネルギー利用の極小化、製品ライフサイクルを通した温室効果ガスの排出削減、炭素循環社会に向けた技術やビジネスモデルの海外展開といった取り組みを行っています。

カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引き、実質的に0にすることです。現在、2050年までのカーボンニュートラル達成のために、化学業界では温室効果ガスの排出量の削減のための取り組みを行っています。

出典:カーボンニュートラルとは|環境省 参照:https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

化学業界の詳細を理解し就活に活かそう

化学業界は、私達の身の回りにあるさまざまな製品開発に貢献している業界です。ぜひ本記事で紹介した、化学業界の現状や課題と今後の動向などを参考に、化学業界について理解を深めてみてはいかがでしょうか。

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