HRteamに新卒入社。 キャリアアドバイザーの経験を経てマーケティング事業へ異動。 アドバイザー時代にサービス立ち上げや人材開発、人事の業務に携わり、現在では「Digmedia」のメディア運営責任者を担っている。
はじめに
「製薬会社で働きたいけど、どんな仕事があるの?」 「製薬会社って人気が高くて就職が難しそう」 「製薬業界の現状や動向は?」 現在就職活動や転職活動をしている人の中には、製薬会社に勤めたいと思っている人もいるでしょう。また、それに向けて修士課程や博士課程に在籍している学生さんもいるかもしれません。
この記事では、製薬会社で働く主な職種やその業務内容、製薬業界で求められる人材などを紹介します。また、製薬業界全体の動向なども併せて解説するため、業界研究の一助となるでしょう。
この記事を参考にして製薬業界の業界研究を進め、自分の足りないスキルを身につけるなど自分の強みを増やしてください。
【業界研究の前に】そもそも製薬業界とは
就職活動において業界研究は欠かせません。業界研究をすることで、志望動機に説得力を持たせるだけでなく、志望業界を絞ったり視野を広げたりすることができます。
業界研究に着手する前に、そもそも製薬業界とはどんな業界なのかを解説します。
製薬業界のビジネスモデル
製薬会社は医薬品を製造し、病院や薬局・薬店で患者に販売して利益を出します。医薬品の大半は製薬会社から卸売会社を経由して最終的に患者に提供され、各段階において収益が発生するというのが、製薬業界のビジネスモデルです。
また、製薬会社は新薬の研究開発も担っています。新薬の承認を得るまでに多くの年月と何百億円という費用をかけます。新薬の発売後は独占販売が認められますが、特許期間終了後にジェネリック医薬品(後発医薬品)が登場すれば、急激に売上が落ち込むでしょう。
医薬品の種類
医薬品には医療用医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品、新薬、ジェネリック医薬品の5種類があります。
医療用医薬品は医師の処方箋に基づいて薬剤師が調剤する薬です。要指導医薬品は医療用医薬品から一般用医薬品に転用されたばかりの薬で、薬局などで薬剤師から対面で購入する必要があります。
一般用医薬品は有効成分の含有量が少なく、薬局やインターネットで購入が可能です。新薬は国からの承認を受けて発売された医薬品で、発売後一定期間独占販売が認められています。
ジェネリック医薬品は、新薬の特許期間満了後に新薬と同等の効果があると国の承認を得た医薬品のことです。
出典:くすりの種類|日本製薬工業協会 参照:https://www.jpma.or.jp/about_medicine/guide/type/index.html
出典:医薬品の種類・分類|東京都健康安全研究センター 参照:https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/kj_shoku/qqbox/shurui/
製薬業界の動向
かつて、日本の薬剤研究のレベルは欧米に比べて低く、日本は輸入薬に頼っていました。しかし、1883年に日本初の製薬会社である大日本製薬会社が設立されて以降、日本の製薬技術も急速に前進しました。
製薬業界の最近の動向を見て、業界研究に活かしましょう。
出典:大日本製薬(株)『大日本製薬六十年史』(1957.05)|渋沢社史データベース 参照:https://shashi.shibusawa.or.jp/details_basic.php?sid=3840
市場規模
厚生労働省の「令和2年 薬事工業生産動態統計年報の概要」によると、令和2年の医薬品生産金額は前年比1.9%減の9兆3,053億円でした。
また、令和2年度の国民医療費(電算処理分)31.3兆円において調剤医療費(電算処理分)は7.5兆円を占めています。
出典:令和2年 薬事工業生産動態統計年報の概要|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/topics/yakuji/2020/nenpo/
出典:医科医療費(電算処理分)の動向|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/content/000823975.pdf
出典:調剤医療費(電算処理分)の動向の概要|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/20/dl/gaiyo_data.pdf
薬価改定による価格引き下げの影響
近年少子高齢化などによって医療費が増加しているうえ、医療費における調剤医療費はおよそ4分の1までに達しています。このような事態を鑑みて国は薬価の引き下げを強化し、膨れ上がった薬剤費用を抑制する政策を打ち出しています。
厚生労働省の発表によると令和4年度の薬価基準改定による改定率は、医療費ベースで1.35%減、薬剤費ベースで6.69%減です。このように、製薬市場は近年の薬価改定による価格引き下げの影響を受けて縮小傾向にあります。
出典:令和4年度 薬価基準改定の概要|厚生労働省 参照:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000942947.pdf
コロナによる影響
新型コロナウイルス感染症が世界で拡大したため、海外の大手製薬会社だけでなく国内の各製薬会社もワクチンや治療薬の開発に取り組んでいます。
一方で、新型コロナウイルスへの感染リスクを警戒した患者の受診抑制によって、医薬品の需要は減少、または停滞しています。新型コロナウイルス感染症が製薬業界に与える影響は一時的である可能性もありますが、各社厳しい状況が続くでしょう。
海外でのシェア拡大がポイント
日本では、前述した薬価改定による薬価引き下げ政策は継続されると予想されます。さらに、ジェネリック医薬品の普及拡大などによって、製薬会社はますます厳しい状況が到来するでしょう。
そのため、より大きな市場規模が期待できる国外でのシェア拡大がポイントとなります。特に、経済成長が著しい新興国における需要の増大が重要です。
バイオ医薬品分野での研究・開発
近年、医薬品においても低分子化合物に代わってバイオ医薬品が注目され始めています。人間の体内に存在する酵素やホルモン、抗体などや微生物を介して複雑な分子構造を持つ薬剤がバイオ医薬品です。
このバイオテクノロジーは技術の幅が広く、研究・開発や製造方法の確立には高い技術を要します。しかし、将来的にはこれらの技術の研究・開発によって、低分子医薬品ではたどり着けなかった希少疾病や難治性疾患の治療薬が期待されています。
業界内での再編・統合・M&A
前述したとおり、近年製薬業界にとって厳しい状況が続いています。しかも、新薬の開発には膨大な開発費用を投じられる資金力が必要です。
しかし、海外の製薬メーカーほどの資金力がない日本国内の企業は、製薬業界内で再編・統合・買収を繰り返しています。特に、海外企業の買収や業務提携をすることによって、海外売上高の比率を伸ばしており、今後も同様の状況は続くでしょう。
AI技術の活用
膨大な費用と時間を要する新薬の開発が世界レベルに追いつくために、ICT技術との融合が1つの打開策として大いに期待されています。
特に、注目されているのがディープラーニングなどのAI技術の活用です。これにより、新薬の候補となる物質をより迅速に検索でき、新薬の開発に投じる時間を大幅に短縮できるため、現在積極的に検討されています。
製薬業界の職種は?
就職活動における業界研究に伴って、職種の研究も大切になります。製薬会社は新薬の研究・開発から製造、販売まで事業展開しており、それらの業務を担う職種があります。
理系の学生は主に研究職や開発職、生産職、MR(医薬情報担当者)、文系の学生はMR(医薬情報担当者)や事務職を志望する場合が多いでしょう。
ここでは製薬会社ならではの職種とその業務内容を紹介します。
研究
製薬会社の研究職は理系の就職先として人気のある職種で、薬剤の実験やその結果分析が主な業務です。
創薬研究職は部門ごとに班で研究を進め、医薬品の基礎研究から新薬候補物質の有効性・安全性を動物を用いて確認する前臨床研究まで幅広く携わります。
製薬会社の研究職に就くには、ほとんどの場合理系の修士もしくは博士の取得が必要です。また、実験・分析を進める論理的思考能力や最新技術を得るための探究心、英語力なども必要になります。
開発
開発職は臨床試験を行って新薬の開発をする職種です。製薬会社の開発職も研究職と同様、理系の修士もしくは博士の取得が必要であり、人気の職種なので採用を勝ち取るのは狭き門と言えるでしょう。
臨床試験は治験とも呼ばれ、動物実験で効果が確認された発売前の医薬品を、医療施設や被験者の協力のもと人体に投与し、その薬剤の安全性・有効性・安定性をチェックします。この臨床試験計画を立案するのも開発職です。
開発職は責任のある仕事であり、医療関係者などとのコミュニケーション能力も求められます。
MR(医薬情報担当者)
医療施設などで医薬品の有効性や安全性などの情報提供や情報収集を行うのがMR(Medical Representatives:医薬情報担当者)です。
製薬会社の営業部門に属し、自社の医薬品を医療機関に販売・流通させることが主なミッションです。文系の学生も応募することができますが、製薬会社によってMRの育成手法やビジネスモデルは異なるため、MRの専門的知識の習得レベルには差があるでしょう。
MRは自社製品の売上に直結する職種であり、コミュニケーション能力だけでなく、医薬品に対する幅広い知識や対応力なども必要になります。
製薬業界のやりがい
製薬業界で働くやりがいは、まず成果を実感できたときでしょう。研究職は新たな薬剤を発見したときや仮説が実証されたときなど、開発職は薬剤の効果が実感できたときや開発した新薬が認可されたときなどが挙げられます。
また、営業職は自社製品に対して効果があるという声をもらったときや売上が伸びたとき、医療関係者と信頼関係が築けたときなどが考えられます。
創薬事業は人の命を救ったり苦しみから解放させられる可能性がある仕事です。製薬業界に携わっていると、社会的に大きな影響力があり、人の未来を支えるという壮大な使命を感じることがあるでしょう。
製薬業界で求められる人材とは?
製薬業界にはさまざまな職種がありますが、いずれの部門で働くにしても幅広く高い専門性と新しい技術を取り入れられる柔軟性が求められます。企業間競争が激化している現状において、積極的により多くの知識やスキルを身につける向上心や熱意も必要となるでしょう。
また、日々進化しグローバル化する技術や情報を取り入れるには、英語力も重要です。英語論文を読むだけでなく、英語での論文発表や学会発表にも対応することになります。また、海外企業間での買収や提携、海外への事業展開を考慮すると、英語力は必須と言えるでしょう。
製薬業界への理解を深めよう
人気が高い製薬業界における就職活動は非常に難関です。採用を勝ち取るには、入念に業界研究や企業研究を行い理解を深めて、求められるスキルを獲得しておく必要があります。
現在、製薬業界を取り巻く状況は変化しつつあるため、その変化を把握して、自分の強みを十分にアピールしましょう。