HRteamに新卒入社。 キャリアアドバイザーの経験を経てマーケティング事業へ異動。 アドバイザー時代にサービス立ち上げや人材開発、人事の業務に携わり、現在では「Digmedia」のメディア運営責任者を担っている。
スポーツ界のトップで活躍を続けた金本知憲さん、ビジネス界の最前線を走る冨塚優さんが語る、ライバルが多数ひしめく中で圧倒的に結果を出すためのマインド、仕事観とは?余すところなく語っていただきました。
講演者プロフィール
金本知憲:
元プロ野球選手、元阪神タイガース監督。
プロ野球界で数々の記録を残し、2018年1月野球殿堂入りを果たす。
「アニキ」「鉄人」の愛称で親しまれた、平成を代表するプロ野球選手。
冨塚優:
元リクルートホールディングス取締役。
立教大学卒業後、株式会社リクルートに入社。
リクルートホールディングス執行役員、リクルートライフスタイル代表取締役、リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役を歴任。
現在は株式会社ポケットカルチャー代表取締役。
成功するために必要なマインド
皆さん、こんにちは。
ただいまご紹介いただきました冨塚です。
今日は、金本さんから現役野球選手・阪神監督時代の話をしていただきながら、私から皆さんがこれから働く際、必要な力を伝えることができればと思います。
早速ですが、今ここには就職活動を始める学生の皆さんが集まっています。
「将来成功したい」という思いを抱く人もいると思いますが、金本さんにとって「成功」とはどのような状態を指しますか。
我々プロ野球の世界では、一軍で活躍してたくさん給料をもらうことが一般的に「成功」とされています。
しかし、成功の基準には個人差があります。
例えば、ある人にとっての成功は「一軍に入って定着すること」、別の人にとっては「5年間レギュラーを続けること」であるわけです。
僕はタイミングにも非常に恵まれて、15年間レギュラーとして試合に出場し続けることができました。
自分の基準では「成功」の部類と思っています。
ちなみにリーグ入団のときは、広島東洋カープでドラフト4位でしたよね。
はい。
僕は大卒で球界入りしたんですが、非常に低い評価でプロ野球に入りました。
プロ野球界に入った時には、どれぐらいの成績を残せると自分では思っていたんですか?
学生野球とプロ野球の実力レベルの差を、入団初日に痛感しましたね。
入団してから2年目までは、ほぼ二軍生活でした。
大学を卒業して2年間二軍止まりは、だいたい我々の世界ではクビになる対象になってしまうんです。
高卒でプロに入った選手だったら話は別ですよね?
高卒の選手だったら話は別です。
しかし、大卒の選手はすぐに実績を残さなければならない。
当時の僕はプロ野球でヒット2,3本、ホームランを1本、思い出に打てればいいかなと思っていたくらいで。
自分とプロの実力差は、それほど大きく開いていると感じていましたね。
金本さんも入団当初は成功のレベルが低い状態だったのですね。
自分の能力のなさを痛感していました。
2年目のシーズン途中に「お前クビになるぞ、わかっとるか」と声をかけられました。
当時の広島カープは、厳しさしかないチーム。
「頑張りなさい」なんて誰も言いません。
プロ野球は頑張って当たり前です。
僕はその時すでに頑張っていたのですが、結果が出ない時期が続きましたね。
常にクビにされる危機意識をもってプレーしていました。
なかなか芽が出ない時期を経験された金本さんが、試合に出場して活躍し始めるきっかけは何だったんですか?
自分で言うのもなんですが、努力はかなりしてました。
しかし、プロ野球の世界は練習したからといってすぐに上手くなるわけではありません。
周りも努力して上手くなっていきますから。
でも、練習を重ねるうちに
「あのピッチャーの変化球が見えるようになった」
「速い球が打てるようになった」
「だいぶ投げるコントロール上手くなってきたな」
と手応えを感じていました。
成長する過程では、これといった実感はありませんでした。
それでも、気づくと試合で結果が出せるようになり「もしかしてプロで通用するかも」と思い始めましたね。
ご自身の変化のきっかけとなった、ターニングポイントは覚えてらっしゃいますか。
入団2年目の8月頃ですね。
一軍に上げてもらい、プロ野球入りして初ヒットを打ちました。
その時の投手は、当時のプロ野球界では指折りのピッチャーだったんです。
バットを振ったら偶然当たった、まぐれに近いヒットでしたが、 一流の選手からヒットを打てたというのは自信になりましたね。
成長にショートカットはない
なるほど。
今の金本さんのお話をビジネスに置き換えましょう。
私が所属していたリクルートでは「成長」という言葉をよく使います。
「あなたは今成長しているのか」「仕事を通じて成長できたのか」、こうした会話が常々行き交っています。
しかし、 日々の中で自分が成長している実感は、それほど感じられないんですよ。
目の前にやらなければならないことが次々に積み重なって、一生懸命取り組んでいるだけという感覚が強いです。
「自分はこうなりたい」「自分はこうありたい」と目標を持ちながら、目の前にあることを一生懸命やる。
成長とは以前できなかったことが今できるようになる、その差分のこと。
振り返ってみると「あれ、以前は苦労した仕事が短い時間でできるようになった」「いつも叱られていたお客さんから褒められるようになってきた」と、結果が出て初めて自分の成長を実感することがあるんです。
金本さんは成長される過程で、ずっと練習を重ねてこられましたよね。
そうですね。
当時のプロ野球は12月~1月の間はシーズンオフ。
その期間は身体を回復させてメンタルもリフレッシュするのが当たり前でした。
ところが、僕はそうしませんでした。
「シーズンオフの今がチャンス。
皆が休んでいる間に周りから飛び抜けないと」と思い、練習を続けましたね。
もちろん調子が悪くて、身体を休めたときはあります。
でも「この期間は試合が終わった後、絶対にバットを振る」と決意して、決めたことはやり切る。
自分に嘘はつかず、やり通すことはできたと思っています。
積み重ねた努力が、最終的に報われるのですね。
そうですね。
就活されている皆さんにも、自分に合う環境がどこかにあると思います。
例えば、僕は初めから阪神タイガースに入っていたら、そこまで伸びなかったかもしれません。
早いうちから周りからもてはやされて、スター選手として扱われていたらそこで満足してしまう。
実際に最初に入ったチームは、地獄の練習をやっている広島カープ。
そこで一生懸命努力する習慣が身についたので、僕自身にとっては環境が良かったと思います。
仮に金本さんの後輩から「一ヶ月でレギュラーになれるくらい、上手くなりたい。
どうすればいいですか?」と質問をされたら、何と答えますか。
短時間でレギュラーになることは物理的に無理です。
しかし、もしも尋ねられたとしたら、「お前1日何時間寝れば生きていけるか」と聞きますね。
「僕は3時間睡眠で大丈夫です」と返ってきたら、「よし、それなら残りの21時間は練習しろ」と言います。
皆さんお分かりの通り、現実には短時間で大量の練習をしても急激に上手くなるわけがありません。
成長にショートカットはありません。
行動を積み重ねるしかない。
成功者といわれる人には共通点があり、「成功のABC」を大切にしています。
「成功のABC」とは「(A)当たり前のことを(B)馬鹿にせずに(C)ちゃんとやる」こと。
野球でもビジネスでも一緒で、ちゃんと努力しているから実績が出ているんです。
明暗を分けるのは、努力量の差
話は変わりますが、金本さんは選手引退後、阪神タイガースの監督になられましたよね。
今後の活躍が期待できる選手と、素質はあるのに伸び悩む選手、両方いると思うんです。
伸びる選手とそうでない選手の違いは何だとお考えですか。
一言でいうと、野球センスです。
野球の世界では、何も練習しなくてもできる天才型の選手が一割、いくら努力してもプロでは戦えない選手が二割程度はいます。
野球の世界には練習しなくても上手い天才型の選手が稀にいるんですよ。
しかし確信を持っていえるのは、努力しない天才は旬が短い。
練習しない選手は長く活躍し続けることはできていないですね。
活躍できない時期にふてくされるか、歯を食いしばって粘るかで、明らかにその後の人生は真っ二つに分かれます。
一方、練習すれば活躍する見込みがあっても、自ら努力しないタイプの選手もいるのが難しいところ。
練習を強制するのは良くないと言われますが、 「やらせる練習でも身につく」と僕は考えています。
人間は横着なものです。
僕は横着な人間の典型ですから、怠けたい気持ちはよくわかります。
やはり楽をしたいし、休みたい。
頑張ることを先延ばしにしたい感覚もあります。
僕は広島カープという環境で、徹底的に練習させられました。
だからこそ「一流になるには、これほどの練習量がないとダメなんだ」と気づくことができましたね。
やはり、継続的に力を発揮できる人はきちんと努力しているんですね。
野球センスをビジネスにおける能力に置き換えて話すと、企業からの内定を得ている時点で、皆さんにある一定の能力は認められていることになります。
しかし、その中でも飛び抜けた成果を出す人と、そうでない人が出てくるのは野球もビジネスも同じです。
しかし、苦労せずに東京大学に合格してリクルートに入る、素から能力が高い社員もいますが、そうした社員が皆入社後も活躍して昇進が早いかというと全くイコールではありません。
会社に入ってからの努力量で、その後のキャリアは大きく変わるのだと私も思いますね。